片頭痛とはどんな頭痛でしょうか(再掲)

 
  • 片頭痛は一次性頭痛(「頭痛もちの頭痛」)の代表格です。
  • 頭の片方がズキズキ脈打つように痛みます。
  • 頭痛が始まる前に、ギザギザの光、オーロラやモザイクのような模様が20~30分見えて、視界が悪くなる人がいます。これを閃輝暗点といいます。片頭痛はこのような「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」に大別されます。
  • 頭痛発作中には、前かがみの姿勢や、階段の昇降といった日常的な動作で頭痛が増強するのも特徴です。
  • 吐き気がして、吐いてしまう人もいます。
  • 多くのかたは、光や音に敏感になって、発作中は部屋を暗くして、TVやラジオも消して寝ている状態になります。
  • 頭痛発作は4~72時間程度続いて、自然に回復します。
  • 「片頭痛」と書きますが、両側痛い片頭痛のかたも沢山おられます。
  • 住民調査では100人中8~9人、30~40歳代の女性に限ると5人にひとりは片頭痛もちです。

 

片頭痛はとても辛い頭痛です。頭痛外来を受診されるかたの半数以上は片頭痛という統計が出ています。

  • (竹島多賀夫・富永病院)

 

片頭痛はなぜ起こるのでしょうか

片頭痛発生機序
片頭痛発生機序
  • 片頭痛は、日常生活に支障をきたすほどの一側頭部の激しい拍動性の痛みを主徴とする、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏などを伴う疾患ですが、その原因は十分に解明されているとはいえません。現在までに、分かっているいくつかのメカニズムをお示しします。
  • 片頭痛は、これまで長い間、脳を取りまく血管の病気、つまり「血管性頭痛」であると考えられてきました。しかし、片頭痛前兆の研究や片頭痛特効薬トリプタンの作用メカニズムなどから、現在では血管の疾患ではなく、大脳の深い部分にある間脳あるいは脳幹と呼ばれる器官の付近に「片頭痛発生器」があると考えられるようになってきています。つまり片頭痛は「中枢神経疾患」であると考えられています。
  • 片頭痛には、「前兆のある」タイプと「前兆のない」タイプがあります。いずれのタイプにおいても、大脳の後頭葉皮質におこる神経の興奮現象(大脳皮質性拡延)がその原因とされており、片頭痛発作のスタート現象として注目されています。現在、片頭痛の予防薬の開発目標は、この皮質拡延性抑制をいかに抑える薬を見つけるかが鍵になっています。
  • さらに、片頭痛発作の時はセロトニンと呼ばれる脳内物質が減少あるいは機能が低下することが知られています。片頭痛発作の時に、セロトニン様作用をもつトリプタンがよく効くのは、機能低下状態に陥っているセロトニンをバックアップするからなのです。

(慶應義塾大学・鈴木則宏)

 

片頭痛の分類:片頭痛にはどのような種類があるのでしょうか

閃輝暗点
閃輝暗点
  • 2004年に作成された国際頭痛学会の分類では、片頭痛を「前兆のある片頭痛」 migraine with aura と「前兆のない片頭痛」 migraine without aura に分けています。
  • 「前兆」とは、頭痛の前に出現する大脳皮質の機能障害に基づく症状で、視覚的な症状、感覚の症状、言葉が出にくくなる失語の症状などがあります。
  • 一番多いのは、閃輝性暗点といって、視野の中心にきらきらした光がみえ、次第にその周辺のギザギザした光が大きくなり、その内側がみえなくなる現象で、前兆の80-90%がこの現象です。(図)
  • 感覚の症状が前兆としてみられるタイプでは、チクチクした感じとともに感覚鈍麻も部位を自覚する症状がみられます。
  • 運動麻痺を前兆としてみとめるタイプは、一般にありませんが、家族性の片麻痺性片頭痛という特殊なタイプでは運動麻痺がみられます。前兆は一般に60分以内に消失し完全に元の状態に戻りますが、その後60分以内に頭痛が出現します。
  • この前兆症状がみられるときに、大脳皮質の局所脳血流量が減少することが観察されている。この局所脳血流量は一般に後頭部から始まり前方にへ波及するが、その機序として皮質拡延性抑制が考えられています。
  • (埼玉医科大学神経内科 荒木信夫)

 

片頭痛の診断基準:片頭痛はどのようにして診断するのでしょうか

片頭痛の診断
片頭痛の診断
  • 片頭痛の診断は国際頭痛分類の診断基準に従ってなされています。
  • 診断基準項目は5つあり、その内容は 
  • ①として  ②③④に合う頭痛が5回以上ある
  • ②として頭痛が4から72時間続く
  • ③特徴として次の4つのうち2つ以上を認める
    • 片側性、拍動性、 中等度から重度の頭痛、日常動作で頭痛がひどくなるか痛いので日常動作を避ける
  • ④次のいずれかあるいは両方を頭痛の時に認める

吐き気或いは嘔吐、 光過敏と音過敏

  • ⑤その他の疾患による頭痛でない


  • 診断基準に無い特徴として、

しばしばその方に決まって頭痛の引き金となる因子(昼寝など)がある、
家族に同じ頭痛の人がいることが多い、
睡眠後に頭痛が軽くなる、
子供の時乗り物しやすかった、
女性ホルモン変化に関連して起こるといったことが挙げられます。

  • 診断基準に片側性、拍動性という頭痛の特徴が挙げられていますが、いつも片側性の頭痛は30%前後の患者さんに見られるだけで、拍動性もいつもズキンズキンする人の方が少ないといわれています。
  • 両側性に痛くても、締め付けられる痛みであっても、ひどい痛みで日常生活が普通に送れなければ片頭痛の可能性があることになります。
  • 頭痛の前触れとして、生あくび、眠気、空腹感等のほかに、首肩こりを認めることも良くあります。
  • 片頭痛の診断にあたっては、患者さんの頭痛症状の特徴をよく聴き、診察(片頭痛であれば頭痛の無い時は何の異常所見もありません)して、診断基準の②③④を満たしていて片頭痛としておかしな所見が無いか、疑わしいところがあれば各種検査して診断基準⑤を確認しています。
  •  
  • 聖路加国際病院 神経内科 岡安裕之

 

片頭痛の治療:片頭痛はどのような治療法がありますか

片頭痛の治療
片頭痛の治療
  • 片頭痛の急性期の治療は、早期の頭痛やその他の症状を改善させ、通常の日常生活が可能な状態にすることを目標とします。
  • 薬を使用するのが原則ですが、症状の軽重で選択も変わります。
  • 診断がついて、患者自身が効果的な薬がわかっている場合には無理に変更する必要はありません。
  • 薬の種類にかかわらず、早期に服用する方が有効性の高いことも明らかになっています。
  • 薬として、鎮痛薬、非ステロイド系鎮痛解熱薬、トリプタン系薬剤が使用されます。
  • 制吐薬を併用することも有用です。
  • 従来使用されていた、エルゴタミンとカフェインの合剤の使用範囲が相当に狭まっていますが、難治性の片頭痛で使われることもあります。
  • 一方、薬によっては特有の副作用があるので、これも考慮して薬を選択します。
  • 実際、妊娠可能年齢の女性の患者さんが多いので、妊娠の可能性(または希望)がある場合は、アセトアミノフェン+メトクロプラミドを使います。 
  • 最後に、患者さんにより特有の誘因、睡眠不足・過多、アルコール、ココア等がある場合には、これらを避けることも治療となり得ます。

(北里大学神経内科学・北里研究所病院神経内科 濱田潤一)

「片頭痛の治療:トリプタン治療」

トリプタン服薬時期図
トリプタン服薬時期図
  • 片頭痛発作が起こった時に痛みを鎮める薬が片頭痛急性期治療薬と呼ばれます。
  • 片頭痛急性期治療薬には、いわゆる鎮痛薬や市販の頭痛薬がありますが、トリプタンもその一つです。
  • 脳を取り囲んでいる硬膜と呼ばれる膜に分布する動脈が拡張し、三叉神経が興奮状態にあることが片頭痛の痛みの原因です。
  • セロトニンと呼ばれる神経伝達物質は拡張した血管を収縮させ、興奮状態の三叉神経の終末に作用し鎮静化させます。
  • トリプタンは、拡張した血管と興奮状態の三叉神経終末に対してセロトニンと同じ作用をし、血管を収縮させると同時に三叉神経を鎮静化させ頭痛を治します。他の鎮痛薬などと異なり痛みの原因を鎮める片頭痛の特効薬です。
  • 日本では現在アマージ、イミグラン、ゾーミック、マクサルト、レルパックスと呼ばれる5種類のトリプタンが処方されています。錠剤として使われますが、ゾーミックとマクサルトは口腔内で溶け水なしで服用できるものもありあます。
  • イミグランには、点鼻薬と注射薬があります。注射薬は最もよく効くため病院の救急室で使われます。自分で注射するキットもあり、経口剤や点鼻薬が無効の場合に使われます。
  • トリプタンが著効するためには服薬のタイミングが重要です。我慢して頭痛が激しくなってから服用すると十分な効果が得られないことがあります。頭痛発現の早期に服用するとよく効きます。痛みはまだ軽くても頭を左右に振って痛みが響くと感じはじめ時が最適服薬時期です。
  • トリプタンは血管を収縮させる作用があるので心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症のある方は病気が悪化する可能性があるため使用できません。
  • トリプタンは副作用が少なく安全性の高い薬ですが、時にめまいや眠気を感じることもあります。まれに服薬後に前胸部が重苦しく感じることがあり狭心症と間違われやすいですが、ほとんどの場合は狭心症ではなく通常は10分程度で消失します。
  • トリプタンも他の鎮痛薬と同様に服用回数が多すぎるとかえって頭痛がひどくなる薬物乱用頭痛を引き起こします。服用する回数をメモし服薬する日が一か月に10日以上にならないように注意が必要です。
  • 服用回数が多くなるようなら片頭痛予防薬の併用が推奨されます。

(医療法人 立岡神経内科 立岡良久)

片頭痛の予防療法

  • 片頭痛の発作が繰り返し起こり(月に2回以上または6日以上)、非ステロイド系鎮痛薬やトリプタン系薬剤の服用回数が多くなったり、頭痛がいつ来るか不安で日常生活に制限されたりしている患者さんには片頭痛予防薬による予防療法が推奨されます。また、頭痛発作時に頓挫薬を頻回に服用することは、薬物乱用頭痛を誘発することがあり、乱用を防ぐ目的でも予防療法が推奨されます。
  • 片頭痛予防薬として有効性が確かめられている薬剤には、抗てんかん薬、抗うつ薬、Ca拮抗薬、β遮断薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE)などがありますが(表)、わが国で保険適用のあるものは、抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウム(デパケン)、抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール)、β遮断薬のプロプラノロール(インデラル)、Ca拮抗薬の塩酸ロメリジン(テラナス、ミグシス)とベラパミル(ワソラン)です。
  • なかでもバルプロ酸ナトリウム(デパケン)は、片頭痛予防薬の第一選択薬として国際的にも汎用される薬剤です。てんかんの患者さんに使用する量よりは少ない量で効果があることが知られており、推奨される用量は400~600mg/日です。ただし催奇形性の問題があり、妊婦への投与は禁忌となっています。
  • プロプラノロール(インデラル)もバルプロ酸ナトリウムと並んで、第一選択薬としてよく使われる薬剤です。推奨される用量は30~60mg/日です。ただしトリプタン系薬剤であるリザトリプタン(マクサルト)の血中濃度を上昇させるため、併用は禁忌です。
  • アミトリプチリン(トリプタノール)は三環系抗うつ薬として広く使用されている薬剤ですが、片頭痛予防効果も古くから知られていました。わが国では20129月に保険適用(適応外使用)が認められました。推奨される用量は10~60mg/日です。
  • 塩酸ロメリジン(テラナス、ミグシス)の一日用量は10~20mgで、動物実験で催奇形性が認められており妊婦には禁忌で、妊娠の可能性のある女性には注意が必要です。同じくCa拮抗薬であるベラパミル(ワソラン)は片頭痛と群発頭痛に対する保険適用(適応外使用)が認められています。
  • ARBACEといった降圧薬が予防薬として有効であることは国際的には認められていますが、わが国では保険適用が認められていませんが、高血圧と片頭痛を併せ持つ患者さんには有用な予防薬です。特にカンデサルタン(ブロプレス)、オルメサルタン(オルメテック)、リシノプリル(ゼストリル、ロンゲス)は有効性を示すエビデンスがあります。
  • これらの薬剤を、患者さんの既往歴や併存する疾患を考えあわせて、低用量から有害事象がない限りゆっくり増量し、~3か月観察しながら効果を判定していくことになりますが、効果がないと判断したならば他の薬剤に変更します。効果の判定には頭痛日誌が非常に有用です。
  • 効果が認められたらどのくらいの期間、予防薬の服用を続けるかに関する確実なエビデンスはありませんが、漫然と長期間服用せずに副作用の出現に注意しながら~6か月間は継続し、その後、ゆっくりと減量していくことが推奨されています。


表 わが国で保険適用の認められた片頭痛予防薬

 

抗てんかん薬                     バルプロ酸ナトリウム(デパケン)

抗うつ薬                            アミトリプチリン(トリプタノール)

β遮断薬                            プロプラノロール(インデラル)

Ca拮抗薬                          塩酸ロメリジン(テラナス、ミグシス)、ベラパミル(ワソラン)

ARB/ACE阻害薬*             カンデサルタン(ブロプレス)、オルメサルタン(オルメテック)

                                          リシノプリル(ゼストリル、ロンゲス)

 

*:保険適用はないが、高血圧症と片頭痛を併せ持つ患者さんには有効。

 

 

岩手医科大学 神経内科・老年科 寺山靖夫 

 


寺山靖夫

岩手医科大学 神経内科・老年科

 


片頭痛の生活上の注意

  • 片頭痛は生活支障度の高い疾患ですから、できるだけ発作が起きないようにしたいものです。以前から比較的共通の誘発因子が知られていますし、近年、片頭痛のいろいろな詳しいメカニズムが分かってきましたが、個々の発作がどうして誘発されるのかはまだよく分かっていません。
  • そこで、片頭痛に悩まされている方は日常生活において、片頭痛の誘発因子や合併しやすい肩こり・緊張型頭痛への対処が必要です。

    騒音に過敏性のある方は、ガード下やゲームセンターなどの騒音環境や人混みを避ける。

    光への過敏性のある方は、明るい日差しや照明を避け、パソコンの輝度を和らげる。偏光サングラス装着も考慮する。

    タバコや香水のにおいへの過敏のある方は、においの淀んでいるような場所を避けたり、周りの喫煙者に配慮してもらう。

    激しい運動で誘発されやすい方は、もちろんそのような運動を避けるべきですが、運動不足にならないようにストレッチやラジオ体操、速足散歩などを心がける。

    乗物酔いし易い方は、し易い乗物を避けるか乗車時に席位置への配慮や遠方を見るなどの対策をする。

    寝不足や寝過ぎを避け、就寝時刻や睡眠時間を適量一定に保つ。

    気候の変動に注意し、室内や衣服内環境を整える。合わない気象時の外出を控える。

    月経前に決まって起きるような方は、医師と相談して短期間の予防治療を取り入れる。

    アルコールで誘発される方は、控えるべきですが、チーズやチョコレートなどの食物は誘発されたことがなければ、神経質になることはありません。

    精神的ストレスは避けにくいものですが、ストレスがゆるんだときに起こりやすいので、休日などでも⑥を含め、生活時間の一定化を図る。

    片頭痛発作を含む多くの因子が肩こりを来しやすく、肩こりが緊張型頭痛と共に片頭痛発作も引き起こしやすいので、肩こりの誘因(悪い姿勢、眼精疲労、寒冷・冷気、虫歯・歯肉炎、腰痛など)排除や肩こり対策(肩回し体操や速歩散歩などの適度の運動、温湿布の利用、入浴)を日頃から心がけておく。但し、首の細い部分へのカイロプラクティックやマッサージは脳血管障害のリスクがあるので避けること。


亀田メディカルセンター神経内科 福武敏夫